ヘルスケア企業の企業価値の算出マニュアル|医療・介護・薬局の売却相場と高値売却のロジックを解説

ヘルスケア企業(病院・クリニック・介護・薬局・ヘルステック)の企業価値評価(バリュエーション)を専門家が解説。決算書上の純資産とは異なる「有資格者の組織価値」や「地域シェア」の査定方法、売却相場の裏側、薬機法・行政処分リスクに伴う減価要因、そして高値売却を実現するための磨き上げ戦略まで網羅します。

目次

  1. ヘルスケア企業の企業価値は決算書とどう違うのか
  2. 企業価値を算出する3つの手法とヘルスケア特有の実務
  3. 【セクター別】ヘルスケア企業の評価ポイントとKPI
  4. 企業価値を押し上げるプラス査定要因
  5. 企業価値を毀損するマイナス査定要因とリスク
  6. 企業価値を最大化するための磨き上げ戦略
  7. 誰に査定を依頼するかで売り値は変わる
  8. ヘルスケア・医療関連のM&A成功事例【M&A総合研究所 成約インタビューより】
  9. まとめ

「長年経営してきたクリニックや施設を売却する場合、正当な価格はいくらなのか」

ヘルスケア業界の経営者様にとって、自社の企業価値を把握することは、事業承継やM&Aを検討する上での第一歩です。しかし、医療や介護の現場は制度ビジネスという特殊な環境下にあり、一般的な製造業や小売業と同じ基準で査定を行うと、本来の価値を大きく見誤るリスクがあります。

M&Aにおける企業価値は、決算書に記載された純資産だけでは決まりません。特に人手不足が深刻な現在、経験豊富な医師や看護師が定着している組織力や、地域住民との長年の信頼関係に基づく安定した患者基盤は、帳簿には載らない極めて高い資産価値を持ちます。一方で、過去の診療報酬請求の不備や建物の老朽化といった隠れた負債が、成約直前で評価額を暴落させるケースも少なくありません。

本記事では、ヘルスケア企業の売却相場から、高値売却を実現するためのロジック、そしてデューデリジェンスで買い手が注視する重要指標を詳しく解説します。自社の真の価値を再定義し、納得感のあるバトンタッチを実現するためのマニュアルとしてご活用ください。

ヘルスケア企業の企業価値は決算書とどう違うのか

M&Aにおける企業価値は、税務申告を目的とした決算書上の純資産額とは根本的に異なります。ヘルスケア業界においては、建物や医療機器といった有形資産以上に、将来のキャッシュフローを生み出す無形資産の価値が極めて高く評価されるためです。

例えば、10名のベテラン看護師や薬剤師が安定して勤務している組織は、買い手にとって採用コストを数千万円単位で回避できる価値と同義です。また、地域においてこのクリニックなら安心という患者基盤を築いている場合、それは将来にわたる安定収益権として評価されます。これらは決算書には1円も記載されませんが、M&Aの現場ではのれん代として売却価格に大きく上乗せされます。

一方で、ヘルスケア特有のマイナス要因にも注意が必要です。診療報酬・介護報酬の過去の請求内容に不備があり、将来的に返還を求められるリスクや、耐震基準を満たさない建物の老朽化リスクなどは、時価評価の段階で厳しく差し引かれます。帳簿上の純資産が1億円であっても、これらのプラス・マイナス要因を総合的に評価した結果、市場価値が3億円になることもあれば、逆にマイナス査定になることもあるのがヘルスケアM&Aの現実です。

企業価値を算出する3つの手法とヘルスケア特有の実務

企業の価値を金額換算するバリュエーションには、世界的に確立された3つのアプローチが存在します。ヘルスケア業界においては、そのサブセクターの特性に合わせて、重視される手法が使い分けられます。

コストアプローチ

インカムアプローチ

マーケットアプローチ

自社がどの手法で評価される可能性が高いかを知ることは、交渉を有利に進めるための前提条件となります。それぞれの特徴と実務での適用例を解説します。

コストアプローチ(時価純資産法)

コストアプローチは、貸借対照表上の資産と負債をすべて時価で洗い替え、その差額を価値とする方法です。病院や介護老人保健施設など、大規模な不動産や高額な医療設備を保有する事業者のベース評価として用いられます。

この手法の利点は、客観性が高く、誰が見ても納得しやすい点にあります。しかし、ヘルスケア事業の核心である稼ぐ力が反映されにくいため、実務上はこの手法単独で価格が決まることは稀です。あくまで「この金額以下では売らない」という底値を確認するための指標として機能します。

インカムアプローチ(DCF法)

インカムアプローチ、特にDCF法は、その企業が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフローを、リスクを考慮した割引率で現在価値に換算して算出する手法です。

この手法は、創薬ベンチャーやヘルステックSaaS企業など、現在は研究開発費がかさんで赤字であっても、将来的に爆発的な成長が見込まれる企業に対して適用されます。一方で、既存のクリニックや介護施設の場合は、将来の診療報酬・介護報酬の改定による減収リスクが割引率に織り込まれるため、保守的な査定になりやすいという側面もあります。

マーケットアプローチ(マルチプル法・年倍法)

マーケットアプローチは、評価対象となる企業と業種や規模が似ている類似企業の指標を参考に算出する手法です。中小規模の調剤薬局や介護施設、歯科クリニックのM&Aで最も一般的に採用されています。

実務では年倍法と呼ばれる簡易的なマーケットアプローチが多用されます。具体的には、「時価純資産 + 実質営業利益の3〜5年分」という計算式です。この「3〜5年」という倍率は、地域のシェアやスタッフの質、成長性によって変動します。現在の市場相場をダイレクトに反映しているため、買い手の投資判断と最も合致しやすい手法と言えます。

【セクター別】ヘルスケア企業の評価ポイントとKPI

同じヘルスケア業界であっても、医療、介護、薬局、テックの各領域で、買い手がデューデリジェンスにおいて注視する重要指標は全く異なります。これらの数値を適切に管理し、開示できるようにしておくことが高値売却の絶対条件です。

医療機関(病院・クリニック)

病院やクリニックの評価において、基本となるのは病床稼働率や平均在院日数、新患率といった経営効率指標です。しかし、それ以上に買い手が注視する最重要KPIは医師・看護師の定着率です。

代わりのきかない専門職がM&Aを機に離職するリスクは、事業の継続性を揺るがす最大のリスクと見なされます。また、自費診療の比率が高いクリニックは、公定価格である診療報酬改定の影響を受けにくいため、将来の収益安定性が高いと判断され、評価倍率が高くなる傾向にあります。

介護・福祉事業(施設・在宅)

介護施設や訪問介護・看護事業所では、稼働率とレセプト返戻率がチェックされます。これに加え、過去の実地指導における指摘事項の有無や、改善報告の適切性が、運営の質を測るバロメーターとなります。

特に訪問系サービスにおいては、有資格者の人数が売上の物理的な上限を決めるため、採用・育成の仕組みがそのまま企業価値になります。SNSを活用した採用に成功している、あるいは離職率が業界平均より著しく低いといった組織力は、高いプレミアムの対象となります。

調剤薬局

調剤薬局の価値は、処方箋応需枚数と技術料単価という収益の基本構造に加え、集中率が重要な評価軸となります。

特定の病院の処方箋だけに頼る門前薬局よりも、複数の医療機関から広く応需している面分業が進んでいる店舗の方が、特定の病院の閉院リスクに左右されないため、評価が高まります。また、地域支援体制加算の算定状況や、在宅医療への対応実績も、将来の報酬改定への耐性を示す重要な指標です。

ヘルステック・SaaS

IT技術を駆使したヘルスケアサービスの場合、評価軸は一変します。営業利益よりも、売上高倍率やLTV、チャーンレートが重視されます。

独自のアルゴリズムや特許を保有している場合、たとえ現時点で赤字であっても、技術評価として数十億円規模の高値がつくこともあります。ユーザーが日常的に利用し、データが蓄積され続けるプラットフォームとしての価値をいかに証明できるかが焦点となります。

企業価値を押し上げるプラス査定要因

一般的な相場を大きく超えて高く売れるヘルスケア企業には、明確な共通点があります。これらの強みを可視化することで、買い手の投資意欲を最大限に引き出すことが可能です。

ドミナント展開と地域シェア

特定のエリアに集中して複数の施設や店舗を展開しているドミナント化に成功している場合、大きなプレミアムがつきます。これは、スタッフの相互応援による効率化や、地域内での知名度向上、さらには地域連携加算の算定が容易になるなど、単体運営では得られない規模の経済がすでに働いているからです。地域シェア1位の座を譲り受けることは、買い手にとって最も効率的なエリア進出戦略となります。

異業種とのデータ連携ポテンシャル

顧客や患者の健康データを適切に蓄積・管理し、それを活用できる基盤がある場合、将来のデータビジネスとしての価値が上乗せされます。例えば、蓄積されたバイタルデータを保険会社のリスク分析に活用できる、あるいは特定の疾患データを食品・製薬メーカーの製品開発に活かせるといったシナジーは、異業種の買い手にとって極めて魅力的な買収動機となります。

クリーンな労務・コンプライアンス

サービス残業が一切ない、人員配置基準を余裕を持って遵守している、産業医との連携が適切であるといったホワイト経営は、実は最強のプラス査定要因です。買い手にとってM&A後の最大の懸念は、買収後に発覚するコンプライアンス違反です。クリーンな経営状態が証明されている企業は、デューデリジェンスがスムーズに進み、買い手が安心して満額査定を提示できる環境を作り出します。

企業価値を毀損するマイナス査定要因とリスク

高収益を上げている優良な事業者であっても、以下のリスクが見つかれば、企業価値は大幅に減額されるか、最悪の場合は成約直前で破談となります。

行政指導と返還リスク(隠れ債務)

過去の診療報酬・介護報酬の請求において、算定要件を満たさないまま不適切に請求していたり、人員基準を一時的に欠いていたにもかかわらず報告していなかったりする場合、将来的な返還金リスクが発生します。これらは簿外債務と見なされ、想定される返還額や罰金相当分が、買収価格から1円単位で差し引かれます。過去の行政指導の履歴は隠し通すことはできず、正直な開示と是正がなされていない場合、買い手は即座に撤退します。

施設・設備の老朽化

病院や介護施設で、旧耐震基準の建物のまま運営していたり、更新時期を迎えた高額な医療機器の更新計画が未着手であったりする場合、評価は下がります。買い手は、買収直後に発生する設備投資コストを事前に計算し、その分を企業価値から控除するからです。メンテナンス履歴が整備されていないことも、不確実性リスクとしてマイナス査定に繋がります。

キーマンの離職リスク

M&A後の運営の要となる管理医師・施設長・管理薬剤師が、M&Aを機に退職する可能性が高いと判断された場合、評価額は暴落します。ヘルスケア事業は許認可ビジネスであり、管理者が不在になれば、1日たりとも営業を続けることができないからです。経営者自身の引退後、誰が実務的なバトンを引き継ぐのかが不明確な状態は、買い手にとって最大の不確定要素となります。

企業価値を最大化するための磨き上げ戦略

自社の企業価値は、適切な準備によって意図的に引き上げることが可能です。売却の1〜2年前から着手すべき、戦略的なアクションを整理します。

収益構造の可視化とKPI管理

どんぶり勘定の経営では、買い手の信頼を得られません。部門別の損益、ユニットごとの稼働率、自費診療の利益率、CPAといった重要指標を月次で可視化してください。買い手が買収後にどのように利益を伸ばせるかのシミュレーションを描きやすい状態を作ることで、将来への期待値がのれん代として価格に反映されるようになります。

労務環境の整備と処遇改善

未払い残業代の精算を済ませ、就業規則を最新の法令に適合させてください。また、スタッフの満足度をアンケート等で把握し、不満の種を事前に取り除いておくことも重要です。スタッフが新しい体制になってもこの職場で働き続けたいと思える環境を作ることは、M&A後の離職リスクを払拭し、買い手からのディスカウントなしの満額回答を引き出す最強の対策となります。

誰に査定を依頼するかで売り値は変わる

ヘルスケア企業の価値算定は、一般的な税理士や不動産鑑定士、総合型のM&A仲介会社では困難です。業界特有の制度ビジネスの仕組みと、リアルタイムの市場需要を理解している専門家に依頼しなければ、大損をする可能性があります。

顧問税理士による評価の限界

多くの経営者様が最初に相談される顧問税理士は、あくまで税務のプロです。税理士が算出する株価は、相続税を低く抑えるために、資産をできるだけ低く評価するための数字です。しかし、M&Aの売却価格は、ビジネスとしての将来性を評価する投資価値です。税理士の評価額を鵜呑みにしてしまうと、本来3億円で売れるはずの価値を、自ら1億円で売りに出してしまうような致命的な過ちを犯すことになります。

M&A総合研究所による市場価値に基づく査定

M&A総合研究所は、ヘルスケア業界に特化した膨大な成約事例データと、現在動いている全国の買い手企業のリアルタイムな買収ニーズに基づき、実際に売却可能な最大値を算出します。

当社の医療・介護・テックの各専門チームは、単なる会計数値だけでなく、地域医療計画における施設の重要性や、蓄積されたデータの2次利用価値といった、ヘルスケア特有のポテンシャルを正当に評価します。AIマッチングを活用し、最も高く評価してくれる買い手を異業種も含めて探索することで、相場以上のバリュエーションを実現します。完全成功報酬制を採用しているため、まずは自社の市場価値を知るための査定だけでも、リスクなくご利用いただけます。

ヘルスケア・医療関連のM&A成功事例【M&A総合研究所 成約インタビューより】

自社の持つ地域的な重要性や安定した事業基盤が正当に評価され、最適なバトンタッチを実現した成功事例を紹介します。

【栃木県・介護事業】株式会社ケアズ・コネクト|異業種が評価した事業価値

栃木県で訪問介護などを展開していた企業の事例です。経営者は高齢で後継者がおらず、地域の介護ニーズが高いにもかかわらず、自力での継続に限界を感じていました。

最終的に、M&A総合研究所を介して、東京に本拠を置く異業種企業への譲渡が決まりました。買い手企業は介護分野は未経験でしたが、介護報酬による安定したキャッシュフローと、対象会社が長年築いてきた地域での強固な信頼関係を「インフラとしての価値」として高く評価しました。結果として、従業員の雇用を守りつつ、創業者としての正当な対価を得ることに成功した事例です。地域の枠を超えたマッチングが、真の事業価値を掘り起こした好例と言えます。

まとめ

ヘルスケア企業の企業価値は、決算書に現れる数字以上に、地域社会での役割やスタッフの質、そしてクリーンな運営体制といった無形資産にこそ宿っています。2025年問題を目前に控え、異業種からの参入が加速している現在は、自社のポテンシャルを最高値で認めてもらえる絶好の機会です。

成功のポイントは、相続税評価などの低い数字に惑わされることなく、M&Aの市場価値を熟知した専門家の査定を受けることです。行政指導歴などのリスクを早期に是正し、KPIを可視化する磨き上げを行うことで、譲渡価格は数千万円、数億円単位で向上します。廃業という決断をする前に、まずは自社が市場でどのように評価されるのか、客観的な視点で確認してみてください。M&A総合研究所は、ヘルスケア経営者様の想いに寄り添い、最良のバトンタッチを実現するために、専門知識とAI技術を駆使して全力で伴走いたします。

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